◆後に台東区・荒川区・足立区そして《秋葉原特区》を統治する《クリプト・コズミック・サーカス》レギオンマスター、イエロー・レディオを主人公に、数多のレギオンが乱雑し、七大レギオンが弱小と呼ばれ、あるいは存在してすら居ない時期の出来事を書くストーリー。 《無制限コピー》終了に伴うバーストリンカー人口比率の二極化、狩りによるポイントの獲得が容易な《中央エリア》と人員が揃えられずレギオンの失われた《過疎エリア》。住み分けという形で交流が失われかけた両者は、ある一つのきっかけが元で統合を開始する。 それは聖地《アキハバラBG》の解放と、最後の《純粋色》の登場だった。 《七の神器》が無いのでチート的防御力も攻撃力もへったくれも無い緑・紫・青。空気読めてねー黒。フラグ乱立の赤。ピザ焼くパン焼く料理を作りまくる黄。もれなく全員小学生! 後に世界を統括する王と呼ばれるバーストリンカーが、或いは姿を消したバーストリンカーが、黎明期を終えたばかりの加速世界でどの様に戦ったのか。 そして大事な事だが、この話はBLです。話の流れは本編筋のシリアス物としてそのまま転用できる上に上巻では何も手を出していませんが一応ボーイズラブです(2度言いました)。3回目言いますが、イエロー・レディオ総受けBL小説です!
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あらすじ 「凄いですねぇ、この辺りでは見かけませんが、誰かご存じで?」 《過疎エリア》の一つ、台東区。《中央エリア》と隣接しながら《秋葉原特区》のおかげで人の行き気が妨げられる場所で、珍しい光景が眼下に広がっていた。 スフィンクス、不定期に港・千代田・台東・荒川そして足立にかけ集団で移動する謎の習性を持ったエネミーが昭和通りに差しかかった時、一人のバーストリンカーによって足止めを食らわされる。 全身を分厚い装甲板で覆い、アバターの何処に可動部分はあるのかと問う位見た目が重い。されど動きに鈍さなどは一切無く、襲い来る猛攻を難なく避わしては的確な攻撃を叩き込む。 《過疎エリア》で珍しい、高レベルの狩りを見たさに界隈のバーストリンカーが集まってくる。知り合い、顔見知り、面識なし。とにかく誰もが橋の下、昭和通りを指差し叫ぶ。
全てのエネミーが姿を消し、巨大なディスプレイが男の頭上に輝く。 終了作業を終えて男は辺りを見回した。首都高速に、あるいはビルの窓から覗く数十人のバーストリンカーへ。 鮮やかに濃い体色よりも色彩の強い黄緑の目、首都高速の上からクエストを見ていた『彼』は後日、その瞳を間近で見る事になる。 「外へ流れる程、バーストリンカーが残る確率は減る。残っても、限られるポイントでレベルアップは難しい。俺はエネミーが狩れればそれで良い。たとえクエストがクリア出来なくとも、報酬とは別にポイントを得られる。悪く無い話だ」 「貴方、口説き文句最低ですね」 道化師の姿をしたバーストリンカーと、置き場所に困る観葉植物。 それが全ての始まりだった。 |
▼サンプル 第一幕 恐怖と言う感情がアバター全てに行き渡る。 無言の山羊が見回して、イエロー・レディオを瞳に写した、そこに居たのは、笑みを浮かべる黄色い道化。 我に返った時、左肩に赤い衝撃が走った。 「あ゛あ゛!」 視界にダンジョンの天井があった、隅で、山羊が黙って辺りを警戒している。 獅子が居た、竜と共に、噛み付き食らう。 「いっ!ぁ!」 肩が熱い、胸が焦がれる、心が切れる。 助けを求め伸ばした腕を足が踏みつけた、腕が嫌な音を立てて軋む、もがく足は空しく空を蹴り、自由を奪われた体が蹂躙される。 加速世界の弱肉強食、食う者と食われる者、文字通りその意味で。 「嫌ーーーーー!」 上着が無惨に千切れて胸元が晒された、か細い体の最も惰弱な生命機関に大きく口を。 開いた顔に、緑の拳が横から叩きつけられた。 「グリーン・グランデ!」 更に一撃、胴体へ叩き込む、壁際まで飛んでいったエネミー、そのエネミーが、グリーン・グランデの背中から見える。 「大丈夫か」 疲労など感じさせない声。 「あ、貴方……そ、か、から」 「よくある事だ」 震えて動けないイエロー・レディオを抱き起こし、近場の壁に寄りかける。 「終わらせる、だから、待て」 頭を振り意識を整えるエネミー、指令塔と思わしき山羊が唸った、残る頭も意識を正し、眼下の獲物を見定めた。 グリーン・グランデは半壊した小手を掲げ、走る。 |
▼サンプル 第二幕 「《クリプト・コズミック・サーカス》は台東在住のバーストリンカーによって結成された同盟型レギオンです。マスター選出には各パーティー事にエリアの現状を改善する案を出し、一番支持された者がクエストを受注すると決まりました。結果、私のパーティーが行っていた活動が皆さんに評価され、私の名でクエストを受注したのです」 中央のテーブルで向かい合わせに座る三人。冷たいアイスティーが満たされたピッチャーが各自の脇に置かれている。 「私のパーティーが活動していたのは『飲食関係』。人が生きる糧として娯楽を求めるは古より伝わる手法。ですが、与え過ぎては滅びの道を辿る物と古代よりの戒めです。『ちょっとした楽しみ』として、生活に花を添えるきっかけを提供する事を信条としています」 長い腕の長い指、優雅で器用に巻き取られたパスタが仮面と融合して姿を消す。 「この料理、感想求むってこたぁ自分で作ったんだよな。リアルで何かやってる?」 「それはPK対策という事で」 レッド・ライダーも習って巻いた。揚げ茄子に閉じ込められていたスープが口の中で解放され、厚切りベーコンから溢れる肉汁の甘みが粉パセリの仄かな苦みとマッチして、噛む程に食欲をそそられる。 (……うまっ) 付け合わせのパンは中央がガーリック生地、周りがバジルの生地と異なり、相乗効果でそれぞれの香りが引き立つ。 日々青春真っ只中、リアル気にするなと血気溢れる若者二人の胃袋を、止める命知らずは存在しない。敵は己自身、レギオンマスターとしての度胸とプライドだけで目の前のご馳走をがっつきたい胃袋を無理矢理抑え込む。 「聞きたいが、秋葉原が落ちる前、文京と中央で怪事件が起きた。防衛組の一部が突然消えて長期間拘束され、唐突に解放される。対戦時間内で起きた事故、システム的には何も問題は無いが、連中によるとそれは『目をマークにした黄系統のエンブレム』を持つレギオンの仕業らしい。《クリプト・コズミック・サーカス》は一つ目だったな。だけどあんたは秋葉原を手に入れている。つまりあんたは当日秋葉原に居た訳で、何で隣接していない離れたエリアを攻撃出来たんだ?」 「《クリプト・コズミック・サーカス》は設立したばかりの新米レギオンです。故に領土戦という物を実感して頂く為、台東区とそれに近いエリアを初戦の地とさせて頂きました。特に秋葉原は全てのバーストリンカーが憧れる特別な地、そこで初陣を飾りたいと人気が集まるのは致し方が無い事。私はレギオンマスターとして全員の願いを叶えるべく奔走しました」 「んな理由で秋葉が手に入ったら、俺らの苦労はどうなんだよ」 「ビギナーズ・ラックと思い下さい。今後も、我々が秋葉原の領土権を維持できるかどうか、保障はありません」 「あんた、けっこういい性格してんだな」 「どの様な分野で?」 「…好きだぜ、そういうの」 「ご厚意、有りがたく受け取らせて頂きます」 《プロミネンス》の視線を緩やかに受け流す《クリプト・コズミック・サーカス》。二人のレギオンマスターの見えない攻防戦の最中、《レオニーズ》は駆け引きできる余裕なぞ塵も無かった。 骨付き肉にナイフを刺せば滲み出た脂が鉄板の上で音を立てる。切り分けた身を口元に移すと焦げた皮に塗るマスタードの刺激で胃袋が切なく動く。 鉄板で焼いた甘いタマネギを塩気の利くソースに潜らせて食べた直後、ブルー・ナイトは叫ぶ。 「イエロー・レディオ!」 「はい、何でしょう」 「お婿に来て!」 レッド・ライダーは本気で頭を殴った。 |
▼サンプル 第三幕 「ロータスッ!」 撃ち放つ寸前に背後から飛び出したマンガン・ブレード。ブラック・ロータスを止めようと、エスカレーターの手すりを彼女目掛けて投げつけた。 「いっ、何をする!」 「やかましい!」 狙いが逸れる。上層部の壁を貫通した技の余波で塵が晴れ、逃した影を求めブラック・ロータスは宙を見上げた。 再び構え今度こそ。マンガン・ブレードは折れた自分の剣で彼女に切りかかる。 「ぅきゃぁああああああああ!」 天地ひっくり返る大絶叫。ビル全体にコバルト・ブレードの悲鳴が響いて全員が音源に向かい空中を見上げる。 「私に捕まって!」 「何がぁぁぁぁぁ!」 背面跳びの形でコバルト・ブレードを抱えるイエロー・レディオ。反転する二人の視界に、5Fという看板が飛び込んだ。 細いアバターにどれほどの脚力を有しているのか、コバルト・ブレードが飲み込まれる寸前に飛び込んだイエロー・レディオは彼女を抱え、襲う瓦礫を足場に駆けあがり、壁を蹴ってはまた瓦礫を使い上昇する。これを幾度か繰り返し上空へ逃げ続けた。 大きな手がコバルト・ブレードの頭を庇う。跳躍の角度を変えながら、イエロー・レディオは躊躇する事無く七階の窓へ飛び込む。 「まってぇぇぇぇぇ!」 映画の様に派手な音を立てて割れるガラス。勢いのままに、二人の体が空中へ投げ出された。 「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ!」 半秒の浮遊感の後、重力の法則に従い落下が開始する。一秒、また一秒と加速し、耳元でびょうびょうと風切る音。 「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 |